大会の課題を考えるとき、「外来」の範囲を医療や治療に限らず、当事者が病院や施設に押し込められず、地域の一員として生活して行くために受けられる様々な支援の全体と考え、メインテーマは「心を病む人々に外来で、地域で何ができるか」とした。現代社会の歪みを色濃く反映する外来の課題や地域の人々の心の現状を捉えるため、「現代人の心の行方を考える」をサブテーマとした。
 長年地域の人達と一緒に手作りの作業所を築き上げ、障害の有無を超えて「共に生きるまちづくり」に意欲を燃やす明星さんと、保健所の保健師から生活支援センターの立ち上げ、「長期入院者の退院支援」へと練馬区の精神保健を担ってきた林さんという二人の地域の先輩に副会長をお願いし、日頃の診療で連携して頂いている練馬区と周辺の地域の人達に声をかけ、実行委員を募り、お世話になっている先輩方に顧問をお願いすることから大会の準備を始めた。診療所、病院、作業所、生活支援センター、保健、福祉、介護、相談、当事者、家族など、様々な分野、職種と立場の方々が快く呼びかけに応じて下さり、昨年7月10日を第1回として、毎月第2火曜日の夜に30〜40人の参加で実行委員会を行い、地域の中で各々が直面している問題を出し合いながら討論を重ねることが出来た。
 ようやくプログラムの概要が出来たので、見どころ、聞きどころをご紹介したい。メインシンポジウムの一つは、今外来診療や地域の様々な場面で問題となっている「解離」を採り上げて、臨床にも理論にも秀でた森山、柴山、岡野、信田の各氏の議論に耳を傾け、症状論、治療論、現代人の病理として理解を深めたい。もう一つは、病や障害を持ちながら地域で生活する人々をどのように援助するか、何ができるのかを、5つのミニシンポジウムと4つの交流会で様々な視点から考え、話し合い、最後に「長期入院者の退院支援と共に生きるまちづくり」と題して、林さんと明星さんに熱い思いを語って頂き、白石さんに精神保健・医療・福祉の歩みと現状についてお話頂き、まとめのシンポジウムを行う。
 3つの教育講演と「メンタルヘルスの夕べ」では、若者と貧困、老人と認知症、子どもと発達障害、勤労者とうつ病、病者と家族という現代人のライフサイクルと関連した切実な課題を、最前線のケアを実践している方々に生々しく語って頂く。
 特別講演をお願いした芥川賞作家の高樹のぶ子さんは恋愛小説の名手として知られるが、最近は九州大学アジア総合政策センター特任教授としてアジアの各国の作家や民衆と交流し、報告や作品をブログなどで発表している。恋する心とアジアへの想いを語って頂き、われわれも世界に視野を広げ、アジアの人々と心を通わせたい。
 実行委員会の討論は回を重ねるごとに熱を帯び、生み出された企画は、ミニシンポジウムが「自立支援法は何をもたらしたか」「共に生きるまちづくり」「会社が変わる就労支援」「訪問介護から支援ネットワークを考える」「児童虐待とネットワーク対応」の5つ、地域での支援の方向の模索とネットワークの拡がりに関するもの、交流会が「当事者」「家族」「地域の中の相談」「訪問活動」の4つになった。具体的にこの地域で、外来で、私たちが今求めているもの、私たちの力で今出来ることを出し合って、練馬から熱い想いを全国に発信できるものと期待している。
 国民の治安への不安を煽り迎合した政治家の人気取りと、財政破綻の責任逃れのための官僚の辻褄合せから生まれた「医療観察法」や「自立支援法」によって、人権やノーマライゼーションの理念は後退し、精神保健・医療・福祉の施策は混乱し、地域は疲弊したように見えるが、長年積み重ねられた実践と現実を改革していく力は外来と地域の現場と当事者の中にある。外来の力を、地域の力を、練馬から発信し、発進させて行きたい。



大会長挨拶「第8回日本外来精神医療学会のご案内」
外来の力を、地域の力を、練馬から発信する
2008年2月 第8回大会長 金杉和夫(金杉クリニック院長)